パッソ。

突然3連休 vol.2

出かけていた祖父と祖母を途中で拾い、
4人を乗せたパッソで宇野港を目指した。
母が助手席で父に電話している。
平日なのでもちろん父は仕事だ。

僕と弟が大学や一人暮らしでお金をたくさん使ったので、
うちにはあまりお金がなくなってしまって、
その所為もあり、このパッソにはナビがついていない。
辛うじて父の車にはついているので、ナビを持っていけと父が電話で言う。

つまり、一旦父の職場に寄って、父の車のナビを、
このパッソにのせていけ取り外し可能だからということだ。
なるほどそいつぁ助かるわぁということで、一旦父の職場を目指す。

そこでふと思い出した。
あ、りゅうくん。
高校の時の友達りゅうくんは父と同じ職場で働いている。
男前でおもしろくてお洒落で笑顔がすごく可愛くて優しくて歯が汚いりゅうくん。
お洒落とか全部帳消しになるほど歯が汚いりゅうくんだ。
高校の時、数百人いる全校生徒の中で一番虫歯が多いと先生に言われていた。
そんなもったいない友達がそこにいる。
(よし突撃してみよう)
僕は人の職場にズカズカと入っていって、りゅうくんを探した。
最初は自分で探そうと思って首を伸ばしてぐるぐるやっていたけれど、
パッソを待たせているしあまり時間も無かったのでもう聞いた。
優しそうな細身のおばさんはやっぱり優しくて、お客さんとして案内してくれ、彼のいる部屋まで連れていってくれた。

ドアを開けるとスーツを着たりゅうくんが風に揺れるカーテンの下で音楽を聴いていた。
少し逆光なのもあって、もわんと思い出の中の光景のような、そんな感じに見える。
ああ、高校もこんな感じでぼーっとさぼったりしていたなあなつかしいなあ、
え?いやいや!りゅうくん何しとん!え、さぼっとん!?
僕はまたてっきりさぼっているのではないかとひやりとしたけれど、音楽の録音作業をしているとの事だった。
よかった、ホツと胸をなでおろし、5分ほど喋ってばいばいした。

ちなみに。もし逆の立場だったら、絶対に来てほしくないし、来られたらすごく困るところをりゅうくんはやはり優しかった。
歯を見るのを忘れてしまったけれど、汚ければ汚ないほど嬉しいし魅力的に感じる。
扉を出る際、僕は彼に気づかれないようにそっとおならをして、ナビ付きになったパッソに戻り、ナビで目的地を設定し、シートベルトを締め、もう一度そっとおならをして、うんとアクセルを踏んだ。

つづく

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