なみだ。

上司の涙を見た。
はじめての事だった。

その人は会社の中ではドン的な存在で、
元デザイナーで現在は社内全デザイナーのボスをしている。
だいたいの人は彼女を見るとおじぎをする。
(※一応書いておきます、ドン小西とは全く関係ないです)
負けん気の強い関西人で、仕事一筋ど根性。
55歳をすぎても朝まで仕事するようなおばさんである。
最近は京ことばにハマっていて、やたらと語尾に「おます」を付けてくる。
背はとても高く、幅もある。というより骨が太い。内から太い。
声にも迫力があり、ドスがきいている。
喧嘩したら多分すぐ負ける。
僕は男だし、一応空手の黒帯を持っているのだけれど、
それでも10秒もたたないうちにやられる。
二の腕と太もも回りのサイズ感がすごい。
服はいつも20万円くらいのブランドものを着ていて、
今日は透ける素材の長袖ニットを着ていたけれど、
別に透ける素材じゃなくても充分透けると思う。
ニットの伸び率の限界をとっくに超えているからだ。
仕事中はやたらと水分を摂る。
そして紙コップは燃えるゴミ、紙パックは燃えないゴミと、
謎の分別をして捨てる。
リサーチなどで外に出る時は、お化粧直しにトイレにこもる。
15分ほどたって笑顔で戻ってくる上司は、15分前と全く同じ顔だ。

それが僕の上司である。

いや違う。
今想像している3倍くらいの迫力。
それが僕の上司である。
大好きな僕の上司だ。


そんな上司が今日、涙を浮かべた。
驚いた。
涙とは無縁の人かと思っていたので。

上司が話したのは、
昔の部下の奥さんが子供を残して亡くなったという話
「彼忙しくて、家にもね、なかなか帰れなくて、ね、かわいそうに、
子供はね、まだこんななのにね、、」
声を震わせながら、目には涙がじわっとにじんでいる。
でも涙を目からこぼすことはなかった。
分厚い唇をぐっとして、最後まで話しきった。
そして話し終わった上司に席に戻るように言われ、
僕と先輩は仕事に戻った。
僕は席に戻ってもまだ驚きが収まらずにいて、
複雑な気持ちを続けていた。

3分後。
また上司に呼ばれ、ちょっとだけ、
いつもよりちょっとだけまるい気持ちで上司の所に行った。
するとなんと、普通に仕事の事で叱られた。

180秒間の間にすっかり仕事に戻っていた上司を
今日もまた尊敬しました。

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