ソファー。

連休 vol.4

母が変態ハゲTシャツ男を2階寝室まで送り、
静かになったリビングで僕はソファーに座って雑誌を読んだ。
そのあとワインを飲みながらダーツをして、
チェスの台に置いているチョコレイトを食べた。
そのあとは久しぶりにバイオリンを弾いてみた。
でもちょっと下手になっていたので、
やっぱりピアノを弾いて1曲作ってみた。
とてもいい曲ができたので嬉しかった。

えっとソファーに座った以降は全部嘘だけれど、
それくらいのリッチな気分で夜をすごした。
本当は、なっちゃんを飲みながらジャガビーを食べて
テレビを見ていただけだけれど、
ソファーがあるだけで全然リッチだった。

そして寝た。
朝が来て、なつかしい朝の音がする。
電車の音、風の音、
ガチャガチャと食器を洗う音、
近所の子供達がキャッチボールする声、
鳥の声、祖母の怒鳴り声、
あたりまえに過ごしてきた朝の中にも、
いろいろな音があった事に気がついた。

その日僕はたくさんの人と会った。

そのすべてを書きたいけれど、
長すぎて指が爆発する可能性があるので
印象的な部分を少し。

通っていた高校に行った。
入学したのは10年前だ。
制服も変わっているし、校舎も白く塗られていてキレイになっていた。
部活の帰りによく行っていたたこ焼き屋に行ってみる事になり、
なつかしい道を歩いた。
店に入ると当時とまったく変わらないおばちゃんがいた。
たこ焼きを注文する際に
「僕そこの高校の出身で、よくここ来てたんです、
10年くらい前になりますけど、あはは」
おばちゃんはにこりとして僕の顔をじっと見つめた。
まさか覚えてくれてはいないとは思いながらも、
少し期待してしまい、ドキドキとセリフを待った。
「あー、全然おぼえてないわあ、あはは」
うん、全く覚えてくれていなかった。
でもうん。それはそうだ。
おばちゃんは毎年何百人の生徒にたこ焼きを焼いて、
それかける10の人数の顔を見ているのだから、
当然のこと。

たこ焼きが焼けておばちゃんが声をかけてくれる。
「今は何しとるん?」
「今は東京で仕事してます」
「へー東京にー、がんばってなあ」
「はい、がんばります!」
「あーこれおまけ入れといたから」
「えーありがとうございますう」
おばちゃんはたこ焼きを4つもおまけしてくれていた。
でも無理やりフタを閉めていたので、ぺっちゃんこになっている。

ぺっちゃんこのたこ焼きを食べていると、
心の中で
10年前の僕が僕に何か言いたそうにしていた。
僕は耳をすます。すると聞こえてきた。

「おめー、もっとがんばれや」

とても偉そうに言ってきた。
10歳も年下のくせに。

つづく

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