消えたカード。

会社の自動販売機は専用のカードで買えるようになっている。
今日、会社にお客さんが来て二人分のコーヒーを用意するように頼まれた。
急ぎということだったので、自動販売機のコーヒーで構わないと、上司。

僕は走って自動販売機に向かった。
カードを入れて、ひとつめのコーヒーを押す。
コーヒーがでてくる。お盆にのせる。
ふたつめのコーヒーを押す。
押す、あれ、?
押す。
あれおかしいな。押す。
出てこない。反応がない。
ああそうか、一回ごとにカードを入れなおさないといけないのか。
ん?カード?
あれカードがない。
ああそうか、ポケットに入れたのか。
ん?ないな。
ああ、うしろポケットに入れたのか。
ん?おかしいなないな。
ああ、胸ポケットだったかな。
うん。ないな。

カードがないな。

さっきまであったのに。
もう一度確認する。右、左、後、胸。
やっぱりないな。

焦ってくる。急がんと。
僕は自動販売機の前で踊るように全身を探した。
念の為、靴下や靴の中まで確認した。
それでもカードは出てこなかった。
結局、僕はあきらめてお金を入れる方の自動販売機でふたつめのコーヒーを買って持っていった。

消えたカード。
困る。そのカードは部署の全員が使用しているカードだ。
それが無くなれば上司や他の人まで自腹を切ることになる。
なんとしても見つけ出さないと。
自動販売機の所に戻り、ふとカード入口に目をやった。
なんとなく嫌な予感がする。
僕はおそるおそる中を覗いた。
(あった!カードだ!)
カードは中に入っていた。
けれど全く反応がない。
カード返却ボタンを押しても、
おつりレバーを回しても、ぴくりとも動かない。
僕はすぐにきゅうきゅ、
すぐに自動販売機会社に電話した。
「すみません、カードが、カードが出てこないんです。反応もないんです!」
わかりましたすぐに行きます。
と20分後くらいに自動販売機の人が来てくれ、中のカードを取り出してくれた。
そのカードを見て、自動販売機の人は小さな声で言った。
自動販売機の人
「寿命ですね、このカードはもう」

「そんな!さっきまで使えてたんです、ついさっきまで普通に、」
自動販売機の人
「いえ、磁気が弱ってしまっていて、残念ですが」

「そ、そうですか、わかりました、、」

自動販売機の人は僕の方をちらと見て、
動かなくなったカードを渡してくれた。

(寿命て!どんなタイミングなん!
ひとつ出せたのに!突然すぎるわ!
前ぶれも全くなしで!)

人生いつ何が起こるか分からないことを、カードから教わった。

最後に。今までたくさんのコーヒーをどうもありがとう。
さようなら、カード。またどこかで。

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