本当にあった話。

「首女」

最近どうも仕事面での調子が悪い。
気圧のせいか、朝も起きられないし、
温暖化のせいか、酸素が薄いような気さえする。
首は寝違えて左を向くのがつらい。
そのせいか、肩も凝っている。

そんな最近、僕は不思議な体験をした。

空は白いくも、雨がわずかに降っている。
駅前の横断歩道、前から歩いてくる人の群れ。
ふと気が付く。
右から8番目の女性、様子がおかしい。
顔は真っ白で長い黒髪、白いワンピースを着ている。
色のコントラストは強いはずなのに、
なぜだか薄く消えかかっているような、そんな印象の女性。
そしてうつむきながらゆっくり歩いてくる。
少し典型的すぎるけれど多分幽霊だ。と思った。
そして少し典型的すぎるけれど
「あの人、この世のものではない」と頭の中でつぶやいた。
このまま歩けばすれ違う。
僕は覚悟した。これ知っているから。
すれ違いざまに耳元で何か言われるやつだ。
あの典型的なやつだ。
もしそうなら僕はとうとう幽霊を見たことになるで。
鼓動が高まり、出す1歩が少し小さくなる。
「こわい」
多分普段ならぐるっと回ってすれ違わないようにしたと思うけれど、
最近の不調、その日の気圧などが相まり、何かをハッキリとさせたいような、
ある意味では捨て身な気持ちになり、僕は進んだ。

そしてとうとうすれ違う。幽霊(仮)と。

「…」

あれすれ違った。
おかしいな何も言われなかった。
何も起こらなかった。
「なんだ、この世のものか」
頭の中を安心と残念がシャッフルで流れる。

ところが驚いたのは次の瞬間だ。
ハっとして、さっきの女性を探した。
なんとその女性、右から8番目の女性、
左から数えると4番目だったのである。
なのにどうして僕は右から数えたんだろう。
多分、首を寝違えていたのでそうしたんだと思うけれど、
左から数えたら4番目なのに。
むむむ。なるほどな。
つまり僕はあれだ。
何かのせいにばかりして、
簡単なはずの事でも難しく考えてしまっているんだな。
もっと真ん中で考えないと。

そんな事を思いながらもしばらく見ていると、
幽霊はセブンイレブンに入った。
いやもう完全に生きてますやん。

もしかしたらあの女性も肩こりがひどすぎてうつむいていたのかもしれない。

でもなんとなくスッキリとして
ふぅ、とため息をついて駅に向かった。
その時なんだか冷たい風が吹きぬけたような気がしたので、
僕は弱冷房車両に乗った。

おわり

0 件のコメント: