ホットサン2号。

数年前、学生の頃の話。
僕は夜な夜なインターネットをしたり、
宇宙の不思議について考えたり、
深夜にアルバイトをしていたのもあったりで、
よく寝坊をしていました。
起きると8時54分、あと6分で授業。
そんなこともしばしばあります。
目を開けた瞬間から登校が始まり、
昨日脱ぎっぱなしにしている服をまた着て、
というより着ながらエレベーターに乗って、
家から学校までは一直線の道、
そのままスズキの薔薇という古いスクーター(呼び名:ホットサン2号)にとび乗って、
おもいきりハンドルをひねります。
残念なのは最高速度が25kmくらいしか出ないということです。
早いほうの自転車には抜かれるので悔しい。
信号にもかかります。
この時点で58分、どくんと心臓、汗ひとすじ。
青を待ちます。
青の、あ、になるかならないかの瞬間に発進、
その勢いでカバンからA4の紙がババババと飛び出してしまいます。
でももうかまいません。ふりかえりません。
大量の紙を巻き散らしながら毎1秒を行きます。
ひらひらと紙の舞う中、目線の先に学校。
あと40秒、はしれホットサン2号!
あと30秒、うなれホットサン2号!
あと20秒、とべ!ホットサ、
ここで僕はある事に気がつきます。
そう、今日は雲ひとつない秋の青空、
端から端までなんて濃い青色なんだ。と。
あと15秒、デザイン出しの日に教室の蛍光灯の下と、
海の見える公園とじゃあ、どっちがいいデザインが描けるだろうか。と。
あと10秒、でも出席もとるし、単位とかその。と。
あと5秒、ええい、かまわん!
あと2秒、とべ!ホットサン2号!
0秒、僕は学校を通り越します。
そのまま全速力で公園を目指しました。
気持ちのいい秋の風、なんだ今日は涼しいじゃないか。

つづく


公園につくと、おじいさんと孫が遊んでいます。
僕はその近くのベンチに座り、
足を組み、アイポットを聴きました。
なるべくお洒落な曲を聴いて、
飛行機の音が聞こえるくらいのボリュームで、
クロッキー帳に鉛筆をあてます。
すると隣のベンチにおじいさんと孫が来て、
こっちをのぞきこみながら、
「兄ちゃん、絵描きさんかえ?」
と、おじいさんが聞くので、
「いえ、デザインの勉強をしています学生です」
と答えました。
僕はおじいさんよりも孫のほうに興味があったので、
孫のほうに目を移して、
「なにか描いてみる?」
と鉛筆とクロッキー帳を差し出します。
するとその質問を聞き終わるよりも先にプイっとされました。
なにかの「に」のへんではもうプイっとしかけていて、
いてみる?の「て」のへんではプイっとし終わっていました。
多分ぎんぎんに尖らせた鉛筆が怖かったんだと思います。

そんなこんなで、昼になるのはあっというまでした。
結局、そんなにいいデザイン画は描けません。
昼過ぎに学校に行き、そっと教室に入り、
そしてみんなに「寝坊したあ」と言うんです。

つづく

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