靴下。

代官山でお茶したふたり

イギリスの友々達の展示を見に代官山へ行くという、
なんともお洒落な日曜日。
あんな田舎育ちの僕が代官山だなんて、
はあ~考えられないなあ。
とか思いつつも東急線に揺られて東京の空を見る。
待ち合わせたふたりは専門学校時代の芋(いも)なかま。
いもっていうのは、あまり都会っぽくなくて、
ちょっとあかぬけない感じのこと。
とくに自分も含めて、
専門学校時代の友達はそんな感じのなかまが多い。

数少ない同級生、毎日朝から夜遅くまで学校に行き、
土曜や日曜だって学校で作業、
色ペンやミシンや紙や布と向き合いながら、
好きになったり嫌いになったり、
泣いたり笑ったり踊ったり語り合ったり、
支えあったまさに戦友。
屋上には卓球台とパンチングマシーンがあって、
その横のちょっと広くなった場所でプロレスをしたり、とにかく忙しかった。
みんな息がくさかったから、
忙しすぎて胃をやられていたんだと思う。
ほこりだらけになった大きな布が教室に落ちていて、
拾おうとしたらそれは同級生の女の子だった時は驚いたし、
お風呂に入る時間がなくて香水をつけまくる友達はくさすぎた。

書いていたらきりがないほど、いろんなエピソードがある。
その中のふたりと、代官山で待ち合わせ。

その日見た東京の空は四角くてクール。
やっぱり時間はすぎたんだなと思う。
ここは東京で、みんな社会人。
それぞれに知らない同期がいて、
知らない上司がいて、知らない服を着て、
知らない駅に住んでいる。

代官山につくとふたりはもういて、
会うとぺこりとおじぎをした。
ちなみに、この日僕は遅刻していた。
いや窓から空見とる場合か!走れ!
と、言われそうだけどのんのん。
彼らは僕が遅刻することを分かっていた。
それは学生時代、遅刻魔の僕をずっと見ていたから。
だから遅刻する電話をしても落ち着いて了解されるし、
僕も安心して遅刻できる仕組みだ。

友々達の展示を見て、
代官山のカフェでテーをする。
僕は抹茶ミルクテーを飲み、
彼は珈琲、彼女はキャラメルなんとかテーを飲んだ。
冬、カフェの外の机に座り、ふぅふぅと熱いテータイム。
何度も言おう、ここは代官山。

とちゅう、彼らがごそごそと袋を取り出した。
そしてなにやらそれを僕にむける。
「誕生日、ちょっと早いけど、
最近疲れてるみたいだったからはい」
と僕へのプレゼントだった。
僕は「うええぇ」とぎこちなく喜んだ。
こういう時の僕のリアクションは本当に下手だ、
あげるのは好きだけれど、もらうのはちょう下手なんよな。
でもすごくうれしかった。長方形の袋と正方形の袋。
「あけてみてええかな?」
と、まず長方形の袋をあけた。
中身は靴下だった。
レトロな柄の派手派手靴下だ。
「うわあありがとう」と言うと、
「前はよくこんな柄の服着てただろう」と。
以前の自分を思い出せ、もっと勇気を出せという意味だ。
今度は正方形の袋をあけてみた。
中身は靴下だった。
レトロな柄の派手派手靴下だ。
「うわあありがとう」と言うと、
「前はよくこんな柄の服きてただろう」と。
以前の自分を思い出せ、もっと勇気を出せという意味だ。

僕の胸はありがたい気持ちでいっぱいになった。
でもどうしてふたつに分けたんだろう。
同じお店の同じ種類の靴下を、
どうして違うラッピングにしたのだろう。
ふたりで一緒に買いに行ってくれて、
コンセプトも同じなのに、なぜなんだろう。
少しばかなのかもなあ。
と妙な疑問はあったけれど、それよりとにかく嬉しかった。

思い出した。
へんな服をたくさん持っていたこと。
それで古着でボロボロのジャケットを、裏地を直して堂々としたり、
真緑色のパンタロンや、誰が買うかというようなベルボトムもたくさん持っていた。
サングラスをかけて歩くことも平気だったし、
スズキの薔薇という名前のスクーターに、髪をなびかせ登校したりもした。

僕は今、黒い服に真っ直ぐなデニムをはいている。
なんでかというといろいろ理由はあるけれど、
あれがそれで、あれだからで、大人の理由だ。

ふたりからのプレゼントは
「今のきみは、きみらしくいる?」
というシンプルなストレートパンチで、
僕の心臓付近を打った。まさに、
ハートブレイクショットとでも言いますか。

僕はその場に倒れこみ、大の字になって上を見る。
汗か涙かが目にしみる、視界が狭まっていくのが分かる。
とうとう真っ白になって、ふわっと気を失ったんだ。
次の瞬間、僕は畑に立っていた。
そして一人、いも掘りをする。
じゃがいも、さつまいも、さといも。
どんどん掘る。楽しいんだ。
それはもう夢中で掘るよ。
楽しそうにしている自分を、内側から見てる。

ふと
我に返ると、ふたりは飲み終わっていて、
僕はあわてて抹茶ミルクテーを飲み終えた。
そしてカフェを出て、代官山を出た。
そうだな、その頃にはたしかもう夕方で、
ちょっと寒くなってきていた。

僕はいもが好きだ。
じゃがいも、さつまいも、さといも。
土の中を掘るとゴロっと出てくる感じが好きだ。

靴下どうもありがとう。

3 件のコメント:

モンリー さんのコメント...

芋太くんへ

日記に書いてもらって嬉しいよ。
あの靴下を履いて一歩一歩進んでください。
芋仲間で代官山とか、当時からは本当に信じ
られんよなぁ。
それだけでもう興奮だぜ。

芋美より。

やんじゅ さんのコメント...

やっぱり中身はその靴下の様な芋太が一番芋太らしいよなと思ってね。
でもほんといつでも密会して話しましょう。

また近いうちに。

bosarl さんのコメント...

芋美さん

興奮だぜ。
という響きがもう芋。
ありがとう。


芋也くん

また近いうちに!
今度は、芋でも食べようか。
焼き芋しようか焼き芋。
ありがとう。