太陽は出ていないけれど、妙に明るい。
くもりってはいないくもりの日。そんな日の出来事。
公園でブランコのような揺れる遊具に乗り、珈琲を飲みながらちょい悪の俺(※1)を演出していたら子供が二人寄ってきた。
※1…ちょい悪時の一人称。
僕は子供が好きなので、暖かくかまった。ガムもあげた。
するとサッカーをするから相手をしてくれと言われた。二人は多分兄弟。
うけてたとう、ちびすけども。僕は立ち上がりボールを転がした。
白と黒のベーシックなサッカーボール。妙になつかしい。あぁ、これか。この感じ忘れてたな。
!おっといけない考え事をしている場合じゃない。
相手は現役の子供、パワーとキレが違う。
一生懸命ボールをキープしていたら、二人だった子供は五人に増えた。
仲間を呼ぶとは想定外だった、もう限界か。
いくら子供とはいえ五人対一人では分が悪い。
そしてボールを奪われかけたその時だった、 彼が現れたのである。
ランニングシャツにブリーフ姿のおじさん。
白いおじさん。
おじさんはこちら方面へパスを出せとジェスチャーしている。
味方か、味方なのか、敵か、誰なのか。変態か。
考えいる時間はなかった、僕はブリーフおじさんへパスを出した。
くるくるっ。びょーん。ぷにー。
彼は味方だった。太った体を上手に使い、くるっと回ったりぴょんと跳ねたり、とても楽しそうに舞っていた。
パスもくれた。
いやはやこんなのは初めて見た、本当にボールと友達みたいだ。
あまりにも上手だったのが意外で、少し客観的になれた。
するとなんてキレイなんだ。
子供もおじさんもみんなキラキラしている。
白と黒の古いボールをみんな笑顔満載で追いかけていた。
そんな楽しい時間もつかのま。目の前が真っ黒になる出来事が起こった。
おじさんと子供達に、何かがものすごい勢いで突っ込んだのである。
二人組の男、たぶん歳はあまり僕と変わらない。
一人は金髪で、軍服のようなズボンを穿いた若者だった。
ドキ!
と思ったら、どっこいだ。
彼らはボールだけを奪い、子供へパスを出した。
彼らはサッカーに混ざった。子供の味方についたのである。
こうして、三人から始まったサッカーは、次々に人を呼び、最後は20人くらいになった。
中学生や三十代くらいのお兄さん、さらに子供が5人、
三歳くらいのよちよち子供と、その父親まで混ざってみんな他人とは思えないくらいキャーキャー言いながらサッカーをした。
楽しい楽しすぎる。
ああこれはもうサッカーをしているんじゃない。
ダンスだ。みんなで踊っているんだ。
そうだ多分この楽しさはアレだ、キャンプファイヤーの周りを回るダンスの感じと同じだ。
まいまいまいまいうまいどんぶり。
踊ろう。
夕方になり、ダンスタイムは終わり、みんなで握手をしてそれぞれの方向へ散った。
今思い出しても夢のようだ。
僕はその日以来、人をもっと好きになれた。
これは19歳、イタリアでの研修中の話。
僕の一生の中で一番いい思い出の中のひとつ。
坂が多くてとても古い、いい街だったのを今でもよく覚えている。
太陽は出ていないけど、妙に明るい。
そんな日の出来事。
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